金融規制メモ

金融規制を専門とする弁護士のメモ

銀行・保険会社のフィービジネス(③ビジネスマッチング)

ビジネスマッチングについては、銀行・保険会社の行為が「紹介」にとどまるか、それとも、「媒介」に該当するか、という点が問題になることがあります。

 

法令上、ビジネスマッチングは「他の事業者等の業務に関連する事業者等又は顧客の紹介」と表現されています。これに該当するといえるためには、銀行・保険会社の行為が紹介にとどまるものである必要があります。

 

これにとどまらず媒介に該当する行為は、ビジネスマッチングと整理することができないため、別途「その他の付随業務」と整理することができるかを検討することになります。「その他の付随業務」として認められるかについては、当局のガイドラインで判断基準も示されていますが、明確な判断は容易でないこともあります。

 

そこで問題となるのが、「紹介」と「媒介」の区別です。この両者の区別は、金融規制の実務では最も検討する機会の多い論点の一つといえます。ビジネスマッチングについて検討する局面以外でも、この論点を検討する局面は多くあります。

 

金融商品・サービスについては、その媒介が規制対象業務とされることが多くあります。例えば、銀行・保険会社の商品・サービスの媒介は、銀行代理業・保険募集としてそれぞれ規制対象業務とされています。こうした規制対象業務に該当するかどうか(=ライセンスの要否)を検討する局面で、媒介に該当するか(=ライセンス必要)、それとも、紹介にとどまるか(=ライセンス不要)の検討が必要になることがあります。

 

媒介について、法令上の定義はありませんが、一般的には、契約の成立に尽力する一切の行為を意味すると解釈されています。媒介該当性については議論の蓄積も多いところですが、あえて要約すれば、個別具体的な商品・サービスについて説明や勧誘を行えば「媒介」、そこまで踏み込まずに契約の両当事者を引き合わせるだけであれば「紹介」というイメージになるかと思います。

銀行・保険会社のフィービジネス(②コンサルティング)

銀行・保険会社のコンサルティングについては、その内容に限界はないのか(どのような内容のコンサルティングであっても付随業務として認められるのか)という点が問題になることがあります。

 

法令上、コンサルティングは「他の事業者等・・・の経営に関する相談の実施」と表現されています。この表現は幅広い内容を含むように読めます。しかし、法令では、これに加えて一定の限定が付されています。少し長くなりますが、条文の文言を引用すると、

「当該銀行・保険会社の保有する人材、情報通信技術、設備その他の当該銀行・保険会社の営む銀行業・保険業に係る経営資源に加えて、当該業務の遂行のために新たに経営資源を取得する場合にあっては、需要の状況によりその相当部分が活用されないときにおいても、当該銀行・保険会社の業務の健全かつ適切な遂行に支障を及ぼすおそれがないものに限る」

こととされています。簡単にいえば、銀行・保険会社が自らの経営資源(既存の経営資源、または、無理なく取得できる新規の経営資源)により遂行できる内容に限られる、ということになります。

 

自らの経営資源により遂行できる内容は、銀行・保険会社毎に異なると思いますし、同じ銀行・保険会社でも時を経て変化することもあると思います。例えば、本業の変革に応じて獲得した人材・ノウハウ等を活用することにより、コンサルティングを遂行できる内容が拡大することもあり得ると思います。

 

自らの経営資源により遂行できない内容であれば、銀行・保険会社がコンサルティングを行うことは、法令上許容されないことになります。この場合、銀行・保険会社が一旦コンサルティングを受託した上で、これを遂行できる他の業者に再委託することも、やはり許容されないことになると思われます。

(続く)

銀行・保険会社のフィービジネス(①付随業務)

銀行・保険会社のフィービジネスについて検討する機会が増えています。銀行・保険会社は、法令により業務範囲が制限されています。本業以外の業務を行うことは、一定の範囲内でしか認められません。フィービジネスについては、この業務範囲規制に抵触しないかという金融規制上の論点があります。

 

より具体的には、フィービジネスが銀行・保険会社の付随業務として認められるかが論点になります。付随業務とは、本業に付随する業務として銀行・保険会社が行うことを許容されている業務です。法令上一定の業務が例示されているほか、「その他の付随業務」というバスケット条項もあります。「その他の付随業務」として認められるかの判断基準は、当局のガイドラインに示されています。

 

銀行法保険業法の令和3年改正では、付随業務の例示に一定の業務が追加されました。この追加された業務の中に、コンサルティング・ビジネスマッチングがあります。

 

コンサルティング・ビジネスマッチングについては、令和3年改正前も、「その他の付随業務」に該当するという解釈が、当局のガイドラインで示されていました。すなわち、銀行・保険会社がコンサルティング・ビジネスマッチングを行うことは、令和3年改正前も可能と解釈されていたものであり、令和3年改正により解禁されたものではありません。

 

しかし、「その他の付随業務」というバスケット条項から法令上の例示業務に格上げされたことにも、一定の促進効果があったのでしょうか。あるいは、元々フィービジネスによる収益源の多様化の試みが活発化する中、改正内容が時流に合致していただけなのでしょうか。両面ありそうに思われますが、いずれにせよ、令和3年改正以降、銀行・保険会社のコンサルティング・ビジネスマッチングについて検討する機会が増えたように感じます。

(続く)

業として(④業態間の違い)

以上のとおり、金融商品取引業貸金業については、「業」の要件として、反復継続性以外の要素が存在するという議論が、ある程度定着しています。これに対し、他の業態について、こうした議論は余り見られません。これは何故でしょうか。

 

金融商品取引業貸金業は、有価証券の売買や貸付け等、世間で比較的広く行われている行為を内容としています。その中には、規制の必要性が乏しいものも、比較的多く含まれます。そこで、「行為」はあるが「業」ではない、と解釈することにより、規制が及ぶ範囲を限定すべきことが比較的多い(=「業」に該当するハードルを高くするニーズが他業態よりも大きい)という面はあるかもしれません。

 

あるいは、単に、各業法がその規制範囲を調整するに当たり、それぞれの歴史的経緯に応じて、異なるアプローチを採っているだけなのかもしれません。例えば、2005年改正前の保険業法では、保険業は「不特定の者を相手方として」保険の引受けを行う「事業」と定義されていました。不特定の者を相手方とすることが「事業」とは別の要件とされていたわけです。なお、2005年改正ではこの要件が撤廃され、現在では、特定の者を相手方とする事業のうち一定のものが、保険業の定義から除外されています。

 

いずれにせよ、業態毎に「業」の意味が若干異なるという点は、実務上留意を要します。

業として(③事業遂行性)

貸金業についても、類似の議論があります。貸金業も、金融商品取引業と同様、営利性が要件とされないため、まず反復継続性が要件になります。そして、これに加えて、「社会通念上事業の遂行とみることができる程度のものであること」も要件になると考えられています。この要件の言い回しは、金融庁ノーアクションレター制度における回答で用いられているものですが、その出所は旧大蔵省時代の当局解説まで遡ります。ここでは短く「事業遂行性」と呼ぶことにします。

 

旧大蔵相時代の当局解説では、事業遂行性を欠く事例として、職場や地域等の小規模な親睦団体が、付随的に相互扶助の観点から構成員に対して貸付けを行う場合が挙げられています。

 

別の事例として、グループ会社間の貸付けも、一定の範囲のものは事業遂行性を欠くと解釈されていました。この解釈は、金融庁ノーアクションレター制度における回答で示されていました。しかし、この解釈は、2014年の貸金業法施行令等の改正により、法令上の除外規定に取り込まれることになりました。現在では、グループ会社間の貸付けは、一定の範囲のものが貸金業の定義から除外されています。金融商品取引法でも、グループ会社間の一定のデリバティブ取引を金融商品取引業の定義から除外する規定がありますが、貸金業法の方がグループ会社間の行為についてより包括的な除外規定を設けているといえます。

(続く)

「業として」(②対公衆性)

第三の要件として、最も広く認知されているのは、金融商品取引業の対公衆性だと思います。金融商品取引業については、営利性が要件とされないため、反復継続性と対公衆性の二つが要件になるといわれています。

 

対公衆性とは何でしょうか。その意味を明確に述べた当局見解はなく、学説上も明確なコンセンサスはないと思われますが、実務上、対公衆性の概念は、主に二つの意味で使われているように思います。

 

第一に、自己のポートフォリオを改善するために行う有価証券の売買は、金融商品取引業として規制を受けないと考えられています。例えば、事業会社でも個人でも、投資として株式売買を行うことがあります。こうした行為は反復継続して行われることもありますが、それでも金融商品取引業として規制すべきものとは考えられていません。この結論を導くために、こうした行為は、対公衆性を欠くため「業」に当たらないと説明されることがあります。

 

第二に、特定少数の者のみを相手方とする行為は、対公衆性を欠くため「業」に当たらないと議論されることがあります。例えば、ある会社がそのグループ会社のみを相手方として行う行為は、金融商品取引業として規制する必要性に乏しいと感じられることもあります。この場合に規制が適用されないという結論を導くために、対公衆性の概念が持ち出されることもあります。

(続く)

「業として」(①総論)

業法の規制対象業務(例:銀行業、保険業金融商品取引業)は、通常、①一定の行為を、②業として行うこと、と定義されます。①の内容は、当然ながら、規制対象業務毎に異なります。他方、②は、どの規制対象業務にも共通する要件です。この②の要件について、少し整理してみたいと思います。

 

②の要件を表現する文言は、規制対象業務毎に多少異なります。「営業」「事業」「業」といった表現が見られます。「営業」という表現は、営利性が要件となる場合に用いられます。他方、「事業」「業」という表現は、営利性を要件としません。平たくいえば、無償であっても「事業」「業」に該当し得るということです。

 

②の要件を構成する要素としては、営利性のほか、反復継続性が挙げられます。「営業」「事業」「業」いずれの表現でも、反復継続性は共通して要件になります。さらに、規制対象業務によっては、営利性、反復継続性以外にも、第三の要件があると考えられています。まとめると、

②の要件=(営利性+)反復継続性(+第三の要件)

ということになります。括弧内の要素は、規制対象業務毎に要否が異なります。

(続く)